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大阪地方裁判所 昭和30年(フ)107号 決定

破産者 鏡谷三次郎

破産管財人 渡辺弥三次

主文

破産者の申立を棄却する。

理由

申立の要旨は「破産管財人(以下管財人という)は、昭和三二年三月頃、破産財団に属する不動産全部である別紙物件表記載の不動産につき原武との間で同人に代金一、二〇〇万円で売却する契約を結び、代金のうち三〇〇万円を既に受領し、残額九〇〇万円は管財人が右不動産の占拠者を立退かせた時に支払を受けることゝなつていたところ、まだ占拠者の立退が完了していない昭和三四年八月一四日頃、原武は右残代金九〇〇万円を管財人方へ送金してきた。そこで管財人はこれを受領し、右不動産につき存する別除権の目的の受戻をし、原武に対し所有権移転登記手続をしようとしている。しかしながら(1) 右不動産は契約締結当時でも時価二千数百万円のもので、現在は時価四、〇〇〇万円近くに達している。従つて、このまゝ右原武との契約を履行すると、同人は破産債権者の甚しい犠牲において莫大な利益を得ることになる。これは不当であるから、管財人をして原武に対し売買代金増額その他売却条件の変更の交渉をさせるべきである。(2) 右不動産のうちには、破産宣告前の強制競売手続により市川仙太郎が競落した物件が含まれている。従つて、原武との売買契約から右物件を除外しなければ競落人の既得権を害する結果となる。(3) 別除権の目的の受戻については未だ監査委員の同意を得ていない。よつて管財人をして右(1) 、(2) の事項を行なわせるため及び(3) の事由があるため、取りあえず管財人に対し、(イ)原武の送金してきた九〇〇万円を売買代金として受領すること、(ロ)別除権の目的の受戻をすること、(ハ)右不動産について所有権移転登記手続をすることの各行為の中止を命ずることを求める。」というにある。

管財人が、昭和三二年三月、破産財団に属する不動産全部である別紙物件表記載の不動産につき、監査委員の同意を得た上鑑定人川上佐一の鑑定した価額を基準にして原武との間で代金一、二〇〇万円で同人に売却する契約を締結したこと、右契約において、代金のうち三〇〇万円をさきに支払い、残額九〇〇万円は管財人において右不動産の占拠者を立退かせ原武に明渡しうる時期が確定した時に支払う、右支払後直ちに管財人が別除権の目的の受戻をした上原武に対する所有権移転登記手続をなすと定められていること、昭和三四年八月一三日、原武は右残代金九〇〇万円を期限の利益を放棄して管財人の銀行預金口座に払込んできたので管財人はこれを受領し領収書を発行したこと、管財人が監査委員の同意を得た上同月一四日から同月二一日までの間にすべての別除権の目的の受戻を完了したこと、以上の事実は本件記録により明らかに認めることができる。そこでまず申立人の前記(イ)、(ロ)の中止命令申立の当否について判断すると、右のとおり既に代金受領行為及び別除権の目的の受戻行為は完了しているのであるから、もはや中止を命ずる余地はない。従つてこの部分の申立は、その余の点を判断するまでもなく失当である。次に(ハ)の中止命令申立の当否について考える。本件の如く、破産法第一九七条に基いて売買契約がなされた後その履行段階の各行為の中止を命じうるのは、右売買契約に例えば無効であるとか取り消しうるか或いは解除できるとかの法定事由がある場合に、取りあえず履行を中止させて、債権者集会においていずれの方法をとるべきかを決しようとする場合であつて、売買契約にそのような法定事由がない以上(本件売買契約に右のような契約の効力自体を左右しうる事由があることは本件記録を精査しても認められない)管財人が誠実に契約を履行するのは契約当事者としての当然の義務であり、申立人の前記(1) のような理由でこれを中止させることはできない。また別紙物件表の(一)及び(四)の不動産につき破産宣告前に強制執行手続が進行中であつたが、市川仙太郎が競買申込をした段階で競落許可決定前に本件破産宣告があり、管財人において右強制執行手続を続行しなかつたことは、管財人の報告書により明らかである。

従つて右強制執行は破産財団に対して効力を失つた(破産法第七〇条)ものであるから、申立人の前記(2) の主張も理由がない。よつて(ハ)の申立も失当である。

結局本件中止命令の申立はいずれも理由がないから棄却することゝし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋欣一)

物件表

(一) 大阪市東区南本町二丁目一二番地の三

宅地 三七坪四合一勺

(二) 同所八番地の三

宅地 五四坪四合四勺

(三) 同所八番地の六

宅地 四坪九合一勺

(四) 同所一二番地の三地上

家屋番号同町第六五番

木造瓦葺二階建店舗一棟

建坪 三五坪六合四勺

二階坪 一四坪四合四勺

(五) 同所同番地上

家屋番号同町第八二番

木造瓦葺二階建工場居宅一棟

建坪 一八坪一合五勺

二階坪 一八坪一合五勺

(六) 同所八番地の三地上(無届未登記家屋)

木造トタン並杉皮葺平家建工場

建坪 約二四坪

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